現在(平成20年度)、医学部の学士編入学試験は、全国29校の国立大学と7校の私立大学で実施されています。学士編入学試験は学士以上の学位をもつ受験者を対象に実施される試験で、大学の3年次(または2年次)に編入することができます。ただし、受験する時点で学士を取得していなくても、学士を取得する見込みがあれば、多くの大学で出願可能です。
学士編入学試験では、試験日程が大学ごとに異なります。だいたい6月から10月までに試験を実施する大学が多いです。したがって、試験日程が重ならなければ、複数の大学を受験できます。
大学ごとに試験内容は大きくことなる
基本的に医学部の学士編入学試験においては、3段階の審査が実施されます。
その3段階の審査とは、以下の3つです。
書類審査では、出願時に提出する課題作文と経歴書、推薦状などの内容が審査されます。審査の結果によっては、筆記試験を受ける前に不合格になる場合もあります。一方で、大阪大学や千葉大学など書類審査がない大学もあります。
2.筆記試験
筆記試験は、全ての大学で課されますが、試験内容には大きな差があります。基本的に、英語と生命科学が試験科目です。小論文が課される場合も多いです。しかし、これらに加えていわゆる理数系科目(数学、物理、化学)が試験科目にある大学(東京医科歯科大学、大阪大学など)もあります。逆に、生命科学が試験科目になく、英語のみが試験される大学もあります(富山医科薬科大学、群馬大学)。ただし、出題される英文は生命科学の論文なので、生命科学の知識なしで読むのはむずかしいでしょう。
3.面接試験
個別の面接は全ての大学で課されます。さらに、集団面接を実施する大学もあります。また、医学研究者の養成を謳っている大学では、大学での研究内容を発表させる場合が多いです。ユニークなところでは、他の受験生や医学部の教授と合宿させることで、受験生の人となりを見る大学(山口大学、群馬大学)もあります。さらに、ボランティア活動に参加させる大学などもあります。
ほとんどの大学で、出願時に課題作文の提出が求められます。また、推薦状や健康診断書が必要な場合も多いです。推薦状は大学での指導教官に書いてもらうのが無難です。指導教官に推薦状を書いてもらうのがむずかしい方は大学に問い合わせてみると良いでしょう。課題作文では、主に以下の3点について記述することが求められます。
1.大学での研究概要(または社会で学んだこと)
2.医学部を志望する理由
3.医学部進学後の展望
課題作文を書くときに、一番に注意しなくてはならないのは、独りよがりにならないことです。自分を冷静に見つめ直して、率直に書くのが良いでしょう。ただし、自分では率直に書いたつもりでも、他の人が読むと何がいいたいのか分からないということはよくあることです。最低でも1回は他の人に課題作文を読んでもらって添削を受けるべきです。
筆記試験の対策
筆記試験の基本は生命科学と英語です。さらに、物理や化学ができれば受験できる大学がかなり増えます。ご自分のバックグラウンドを考慮して勉強計画を立ててください。
生命科学として医学部学士編入学試験で問われるのは概ね、生理学、解剖学、免疫学、生化学、分子生物学です。これだけの範囲をしっかり理解しようとすれば、たいへんな量を勉強する必要がありますが、ほとんどの大学は高校生物と分子生物学をしっかり勉強すれば十分です。とにかく範囲は広いですから、基本的な内容をしっかり押さえて大きな穴がないようにしましょう。
英語は付け焼刃ではなんともならない科目です。日頃からある程度の長さの英文を読む習慣をつくりましょう。まとまった長文をざっと読み、内容を簡潔にまとめる練習をすると良いでしょう。また、出題される英文は医学に関連するものが多いので、医学部受験生向けの英語長文の問題集で勉強すると効率が良いです。
小論文の大前提は日本語を正しく書けることです。当たり前のことですが、これが実はむずかしいことです。主語と述語を正しく対応させること、指示語が指す内容を明確にすること、正しい語句を使うことに注意しましょう。
また、論文では主張を提示することが必要です。ときどき、与えられた主題に関係する事柄の列挙に終始している小論文を見受けますが、このような文章は随筆であって、論文ではありません。論文全体で一貫した主張を明確に提示することを心がけましょう。
最後に、医学部の小論文では、医療や医学の問題について意見を述べさせることが多いです。QOLやチーム医療など、最近の医療のキーワードは知っておくと良いでしょう。
数学については、解析学(微分積分)が中心です。線形代数学が出題される大学もあります。高校数学では対応できない問題が多いので、大学教養向けの演習書でしっかり演習しましょう。
物理については、高校物理が基礎になります。力学と電磁気学、熱学が基本になります。高校物理が身についているならば、大学教養課程の演習書で演習しましょう。
化学についても、高校化学が基礎になりますが、高校化学では対応できない問題も多いです。大学教養レベルの物理化学と有機化学が基本です。これらの基礎となるのが、量子化学と熱学です。化学は数学、物理に比べると学ぶべき範囲が広いので必要に応じて勉強するべきです。
面接試験の対策
基本的に、個人面接で尋ねられることは課題論文で問われた内容と同じです。
ですから、個人面接では課題作文の内容と矛盾しないように気をつけなくてはいけません。特に志望理由については追及されるので、しっかり固めましょう。
この他に、受験生の人となりを見る質問(リーダーシップはとれるか?友人は多い方か?など)などについても尋ねられます。
大学が集団面接を実施する理由は、受験者が円滑にコミュニケーションすることができるかを判断するためです。したがって、必ずしも他の受験生を論破することが評価の対象になるのではありません。個人として優れた意見を発表することはもちろん評価されますが、他の受験生の意見を引き出したり、他の受験生の意見を踏まえて自分の意見を述べたりできれば評価は高くなります。
研究発表でとにかく気をつけなくてはいけないのは、専門外の人に理解できる内容にすることです。医学部の教授が知りたいことは、以下の3点です。
1.なぜその研究する必要があるのか?
2.研究の結果から何が得られた(る)のか?
3.その研究は医学に役立つのか?
つまり、聴き手が分かるように研究の目的と結果を位置づけることが大切です。
また、10分ほどの時間で発表しなくてはならないので、5枚程度のスライドで説明できるように準備しておきましょう。